Chopin Etude Op. 25-9 in G-flat major ショパン エチュード 作品25第9番 「蝶々」

ショパン演奏済み

演奏時間はわずか1分弱。ショパンの全エチュードの中で最も短い曲です。 「蝶々」という愛称がこれほどしっくりくる曲もありません。春の光の中をひらひらと舞う蝶のように、軽快で優雅、そして少し気まぐれな愛らしさを持った小品です。しかし、その軽やかさの裏には、ピアニストを悩ませる「脱力」と「瞬発力」の難しさが隠されています。

作品の背景

この曲は『12の練習曲 作品25』に収められており、1830年代前半に作曲されました。

  • 愛称の由来 「蝶々(Butterfly)」というタイトルは、ショパン自身がつけたものではありません。しかし、右手が鍵盤の上を軽やかに飛び回る様子や、曲全体の愛らしい雰囲気から、後世の人々によって自然とこう呼ばれるようになりました。
  • 献呈 作品25全体は、リストの恋人であったマリー・ダグー伯爵夫人に捧げられています。彼女のサロンでの洗練された会話や、軽やかな社交界の雰囲気が、この曲の洒落た空気に反映されているようにも感じられます。

楽曲の構造と音楽的な特徴

変ト長調(G-flat major)という、黒鍵を多く使う調性が選ばれています。これにより、独特の柔らかい響きと、指の運びやすさ(人間工学的な弾きやすさ)が生まれています。

1. 特徴的なリズムとメロディ

曲全体を通して、「タ・タ・ター(スタッカート・スタッカート・テヌート)」というリズムパターンが繰り返されます。 これは、蝶が羽をパタパタと動かして(タ・タ)、ふわりと風に乗る(ター)様子を連想させます。このリズムが崩れることなく、最後まで軽快に進んでいきます。

2. 右手のオクターブ

メロディは単音ではなく、右手によるオクターブ(+その間の音)で奏でられます。つまり、手の形を広げたまま、終始跳ね続けなければなりません。

3. 一瞬で終わる儚さ

A-B-Aの三部形式ですが、展開は非常にコンパクトです。最後は、蝶が空高く舞い上がって見えなくなるように、上行するアルペジオで軽やかに曲を閉じます。

技術的難易度

聴いていると簡単そうで楽しげに聞こえますが、演奏者にとっては「軽さを保つこと」が至難の業です。

  • 手首の柔軟性と脱力 右手はずっとオクターブの形を保ったまま、スタッカートで跳ね続けます。手首や腕に少しでも力が入っていると、すぐに筋肉が硬直し、テンポが遅れたり音が重くなったりしてしまいます。常にリラックスし、バネのように手首を使う技術が必要です。
  • アーティキュレーション(音の区切り) 単に短く切る(スタッカート)だけでなく、メロディとなる音にはアクセント(マルカート)を付け、歌うように弾く必要があります。「跳ねるけれど、歌っている」状態を作るのが音楽的な難所です。
  • 黒鍵の捉え方 変ト長調は黒鍵が多い調です。黒鍵は白鍵より細くて高いため、高速で移動する際に指が滑り落ちないよう、指先のコントロールが求められます。

この曲が愛される理由

  1. 圧倒的な愛らしさ 深刻で重厚な曲が多いショパンのエチュードの中で、この曲は「癒やし」のような存在です。誰もが笑顔になれるような、無邪気で明るいキャラクターが愛されています。
  2. 視覚的な楽しさ 演奏者の右手が、本当に蝶が舞うように鍵盤の上を行ったり来たりするため、見ていても楽しい曲です。
  3. アンコール・ピースとしての人気 1分という短さと、華やかで明るい終わり方から、リサイタルの最後を飾るアンコール曲としても頻繁に演奏されます。

まとめ

ショパン エチュード「蝶々」は、「重力を感じさせない軽やかさ」を追求した一曲です。

前回の「革命」が地面を叩きつけるような情熱だとすれば、「蝶々」は空へ向かう軽やかな憧れです。短い曲ですが、その一瞬の中にショパンのユーモアと洗練されたセンス(エスプリ)が凝縮されています。ぜひ、ピアニストの指先が描く蝶の軌跡を目と耳で追ってみてください。

楽譜

パデレフスキ編 ショパン全集 II エチュード [ F. F. ショパン ]
楽天ブックス
¥ 3,410(2026/01/17 17:26時点)

Youtube動画

タイトルとURLをコピーしました