この曲は、ピアノ学習者が中級レベルに差し掛かった頃、初めて出会う「本格的なショパンのワルツ」として非常に人気があります。技術的な派手さはありませんが、その分、一音一音に込められた深い悲しみや憧れがダイレクトに伝わってきます。ショパンが故郷ワルシャワで過ごした青春時代の、瑞々しい感性が光る作品です。
作品の背景
この曲が作曲されたのは1829年、ショパンが19歳頃のことです。 作品番号が「69」となっているため、晩年の作品と誤解されがちですが、実は彼の初期(ワルシャワ時代)に書かれたものです。
ショパンの死後、友人のユリアン・フォンタナによって遺作として出版されたため、このような大きな番号が付けられました。当時のショパンは、まだパリに出る前で、初恋や将来への不安、そして音楽への情熱に揺れ動いていた時期です。そうした青年の等身大の感情が、飾らない筆致で描かれています。
楽曲の構造と音楽的な特徴
曲はロ短調(B minor)で書かれており、全体の構成は A-B-A の三部形式が基本となっています。
- 第1部(A):ロ短調の主題
- 冒頭、左手の和音伴奏に乗って、右手が非常に哀愁を帯びたメロディを奏でます。
- このメロディには、ワルツというよりも、ポーランドの舞曲「マズルカ」に近い、独特の「ため」やリズムの揺らぎが感じられます。
- 強弱の指示が繊細で、心の痛みを訴えるような激しい部分と、消え入るような弱音の対比が特徴です。
- 第2部(B):ロ長調のトリオ
- 中間部では同主調のロ長調(B major)に転調します。
- 短調の暗い響きから一転して、明るく、しかしどこか回想的でノスタルジックな雰囲気に包まれます。
- 技術的にはシンプルですが、音が少ない分、美しい音色で歌うことが求められるセクションです。
技術的難易度
ショパンのワルツ全曲の中では、比較的取り組みやすい部類に入り、難易度は初中級~中級とされています。
- 左手の跳躍: ワルツ特有の「ズン・チャッ・チャッ」という左手の伴奏形が登場しますが、跳躍の幅はそこまで広くなく、テンポも中庸(Moderato)であるため、落ち着いて演奏できます。
- ポリリズムへの入門: 一部、装飾音や連符によって、右手と左手のリズムが複雑に絡み合う箇所があります。これらを機械的に合わせるのではなく、自然な呼吸で処理するセンスが求められます。
- 表現力の追求: 指が速く動くことよりも、「いかにピアノを歌わせるか(カンタービレ)」が最大の課題です。
この曲が愛される理由
Op.69-2が多くの人に愛される理由は、その「親しみやすい哀愁」にあります。
ショパンの後期の作品(例えばOp.64-2など)は、悲しみの中にも哲学的な深みや複雑さがありますが、このOp.69-2の悲しみはもっと直感的で、純粋です。「寂しい」「切ない」という感情がストレートに表現されており、聴く人の過去の記憶や感情に寄り添いやすいのです。
また、メロディラインが非常にキャッチーで覚えやすく、一度聴いたら忘れられない魅力を持っています。
まとめ
ワルツ第10番 Op.69-2は、ショパンの青春の記念碑的な作品です。 「遺作」として出版されたことで、皮肉にも彼の生涯を通じて変わらなかった「ポーランドへの想い」や「メランコリー」の原点を知ることができる貴重な一曲となっています。ピアノを弾く喜び、自分の感情を音に乗せる喜びを教えてくれる名曲です。
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