Chopin Nocturne in E-flat major, Op. 9-2 ショパン ノクターン第2番 変ホ長調

ショパン練習中

クラシック音楽に詳しくない人でも、出だしの「シソ~~~ファソファ~~ミ~~」というメロディを聴けば、「ああ、この曲!」と分かるはずです。 夜の静寂(しじま)に優しく響くこの曲は、ショパンが生涯で残した21曲のノクターンの中で最も人気があり、ピアノという楽器が持つ「歌う力」を最大限に引き出した、ロマン派音楽の象徴とも言える作品です。

作品の背景

この曲は、ショパンがパリに出てきて間もない若き日の作品です。

  • 20歳頃の作品 1830年から1832年頃、ショパンが20歳から22歳くらいの時期に作曲されました。故郷ポーランドを離れ、華やかなパリのサロン界でピアニストとして名を上げ始めた時期にあたります。
  • 「歌(オペラ)」への憧れ ショパンはイタリアのオペラ(特にベッリーニの作品など)をこよなく愛していました。この曲は、当時のオペラの歌唱法である「ベル・カント(美しい歌)」のスタイルを、そのままピアノに移し替えたような性格を持っています。
  • 献呈 当時の有名なピアノ製作家プレイエルの妻であり、優れたピアニストでもあったマリー・プレイエル夫人に捧げられています。

楽曲の構造と音楽的な特徴

曲の構成は非常にシンプルですが、そこには魔法のような工夫が施されています。

  • 変奏曲のような形式
    • 調性: 変ホ長調(E-flat major)
    • この曲には、A-B-Aのような明確な展開部がありません。基本的には**「同じ美しいメロディが、何度も繰り返される」**という構成をとっています。
    • しかし、ただ繰り返すだけではありません。繰り返されるたびに、メロディには「装飾音(トリルや細かい音符)」が加えられ、より華やかに、より感情的に変化していきます。これは、歌手が即興で飾りを付けて歌うオペラの手法そのものです。
  • 左手の安定感
    • 拍子は12/8拍子です。左手は終始、ベース音のあとに和音を2つ刻む(ズン・チャッ・チャッ)というワルツのようなリズムを保ちます。この安定した伴奏があるからこそ、右手のメロディが自由にテンポを揺らして歌うことができるのです。

技術的難易度

楽譜に書かれている音をただ弾くだけなら、ショパンの作品の中では初級〜中級レベルであり、比較的弾きやすい部類に入ります。しかし、「美しく聴かせる」となると難易度は跳ね上がります。

  • 「ルバート」のセンス ショパン特有の「テンポ・ルバート(盗まれた時間=テンポを自由に揺らすこと)」が必須です。揺らしすぎると船酔いしたようになり、揺らさないと機械的になる。この絶妙なバランス感覚が問われます。
  • 装飾音の処理 メロディに絡みつく細かい装飾音符を、邪魔にならず、あくまで「歌の一部」として自然に流れるように弾くには、指の脱力と繊細なタッチコントロールが必要です。
  • 左手のコントロール 左手の伴奏が大きすぎると雰囲気が台無しになります。心臓の鼓動のように一定のリズムを刻みつつ、決して出しゃばらない、柔らかい音色が求められます。

この曲が愛される理由

  1. 究極の癒やし 変ホ長調という調性は、柔らかく、温かい響きを持っています。攻撃的な要素が一切なく、聴く人を無条件にリラックスさせる力があるため、カフェのBGMや眠りのための音楽として愛され続けています。
  2. ノスタルジー 美しいだけでなく、どこか「懐かしさ」や「切なさ」を感じさせる旋律です。過去の美しい思い出を振り返るようなその雰囲気は、万人の心に寄り添います。
  3. 「ピアノは歌う」の証明 打楽器であるピアノが、まるで人間の声のように滑らかに歌えることを、この曲ほど雄弁に語っている作品は他にありません。

まとめ

ショパンの『ノクターン第2番』は、若き天才がパリの夜に夢見た、甘く美しい幻想です。

シンプルだからこそ奥が深く、プロのピアニストが弾けば極上の芸術になり、アマチュアが弾けば心安らぐ友となる。ピアノを愛するすべての人にとっての「心のオアシス」のような一曲です。

楽譜

Youtube動画

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