「トロイメライ」とは、ドイツ語で「夢を見ること(夢想)」という意味です。 たった3分ほどの短い曲ですが、そのシンプルで美しい旋律は、世界中の人々の心を癒やし続けてきました。ピアノ学習者にとっては「いつか綺麗に弾きたい曲」であり、巨匠ピアニストにとっては「人生の最後に弾きたい曲」とも言われる、奥深い傑作です。
作品の背景
この曲は、単なる子供向けの曲ではありません。
- 「子供の心を描いた」大人のための曲 シューマンは『子供のためのアルバム』という、実際に子供が練習するための曲集も書いていますが、この『子供の情景(全13曲)』はそれとは異なります。 「大人が、子供の頃を懐かしく回想して書いた曲」であり、技術的には易しくても、精神的には非常に大人びた詩的な内容を持っています。
- 恋人クララへの想い 作曲された1838年、シューマンは恋人のクララ(後の妻)と、彼女の父親の猛反対により引き裂かれていました。 ある日クララがシューマンに送った手紙に「あなたは時々、子供のように見えます」と書かれていたことが、この曲集を作るきっかけになったと言われています。離れ離れの恋人への、優しく純粋な愛の手紙のような側面も持っています。
楽曲の構造と音楽的な特徴
非常にシンプルですが、完璧な構造を持っています。
- 「上昇して、ためらう」メロディ
- 調性: ヘ長調(F major)
- 冒頭、「ド・ファ〜」と優しく上昇するフレーズが印象的です。
- しかし、上がりきらずに、空中でふわっと留まるような動きをします。これが「夢の中でぼんやりしている様子」や「まどろみ」を見事に表現しています。
- 4声体のポリフォニー
- この曲は、右手がメロディ、左手が伴奏、という単純な作りではありません。
- ソプラノ、アルト、テノール、バスという4つの声部(パート)が、まるで弦楽四重奏や合唱のように独立して動いています。
- メロディだけでなく、内声(真ん中の音)が美しく絡み合うことで、立体感と温かみが生まれています。
技術的難易度
楽譜の音符を追うだけなら初級〜中級レベルですが、プロが弾くような「感動的な演奏」をするのは至難の業です。
- 指の独立と保持 前述の通り4つのパートがあるため、「小指でメロディを伸ばしながら、親指で別の動きをする」といった、指の独立性が求められます。これができないと音が途切れ途切れになってしまいます。
- 究極の弱音コントロール この曲は、大きな音で弾く場面がほとんどありません。p(ピアノ)やpp(ピアニッシモ)の中で、音色に変化をつけ、歌わせる繊細なタッチが必要です。
- ルバートの品格 夢見るような曲なのでテンポを揺らしたくなりますが、揺らしすぎると「安っぽい感傷」になってしまいます。自然な呼吸のような、さりげない揺らぎを作るセンスが問われます。
この曲が愛される理由
- ホロヴィッツの魔法 20世紀最高のピアニストの一人、ウラディミール・ホロヴィッツがこの曲をこよなく愛し、アンコールの定番として弾き続けました。 超絶技巧の限りを尽くしたコンサートの最後に、彼がポツリとこの曲を弾くと、会場中の聴衆が涙したという伝説があり、この曲の神格化に一役買っています。
- 万国共通の「ノスタルジー」 どこの国の人が聴いても、「懐かしい」と感じる不思議な力があります。特定の文化に依存しない、人間の根源的な優しさに触れるメロディです。
- 完璧な構造美 無駄な音が一つもなく、短い中に「起承転結」が完璧に収まっています。
まとめ
シューマンの『トロイメライ』は、小さな宝石のような作品です。
派手な装飾は何一つありませんが、そこには「純粋さ」という、大人になるにつれて失われてしまう尊い感情が封じ込められています。聴くたびに心を洗われるような名曲です。
楽譜
Youtube動画
ヴァイオリン版のトロイメライもとても素敵なのでぜひ.
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