Chopin Nocturne in B-flat minor Op. 9-1 ショパン ノクターン 第1番 変ロ短調

ショパン演奏済み

「ノクターンといえば第2番」というイメージが強いですが、実はこの第1番こそが、ショパンという作曲家の「真の個性」が最初に爆発した曲だと言われています。 甘いだけではない、どこか影のある美しさ。そして、音符が重力から解き放たれたように自由に舞うスタイル。若きショパンが「夜」というキャンバスに描いた、センチメンタルな傑作です。

作品の背景

この曲は、ショパンがピアニストとして世界へ羽ばたく準備をしていた時期に書かれました。

  • 若き日の野心作 1830年から1831年頃、ショパンが20歳前後の頃に作曲されました。この曲を含む「作品9(全3曲)」は、彼のノクターン集として最初に出版されたものです。
  • 「ノクターン」の進化 もともと「ノクターン(夜想曲)」というジャンルは、アイルランドの作曲家ジョン・フィールドが考案したものでした。ショパンはフィールドを尊敬していましたが、この第1番で、フィールドのスタイル(右手が歌い、左手が分散和音で伴奏する)を踏襲しつつ、より劇的で、より感情の幅が広い独自の芸術へと進化させました。
  • 献呈 第2番と同様に、マリー・プレイエル夫人に捧げられています。

楽曲の構造と音楽的な特徴

曲は三部形式(A - B - A')ですが、最大の特徴は「割り切れないリズム(連符)」の多用にあります。

  • 第1部(A):夜の憂鬱
    • 調性: 変ロ短調(B-flat minor)
    • 左手は広い音域を行き来するアルペジオ(分散和音)で、ゆったりとした波を作ります。
    • その上で歌われる右手のメロディは、非常に哀愁を帯びていますが、注目すべきは「11連符」や「20連符」「22連符」といった、拍子に収まりきらない大量の音符です。
    • これは、楽譜上の計算(算数)ではなく、「言葉で語りかけるような、自由な間の取り方」を意図しており、ショパン特有の即興的なスタイルを決定づけています。
  • 中間部(B):夢の中の安らぎ
    • 調性: 変ニ長調(D-flat major)
    • 雰囲気が変わり、柔らかい長調になります。右手と左手がオクターブで動くなど、穏やかで優しい響きが特徴です。暗い夜にふと見る、幸せな夢のようなパートです。
  • 再現部(A'):余韻
    • 再び冒頭の哀しい旋律が戻ってきますが、さらに装飾が細かくなり、最後は「長調(ピカルディ終止)」となって、静かに光が差すように終わります。

技術的難易度

有名な第2番に比べると、難易度は高いです。

  • 「連符」の処理 学習者を最も悩ませるのが、前述の「7対6」「11対6」「22対12」といった複雑なポリリズムです。 これを数学的に合わせようとすると音楽が死んでしまいます。左手のリズムを一定に保ちつつ、右手はあえてタイミングをずらすような高度な「ルバート(テンポの揺らし)」のセンスが不可欠です。
  • 左手の跳躍 左手の伴奏は音域が広く、低いバス音から和音まで素早く移動しなければなりません。ペダルをうまく使いながら、音が途切れないように滑らかに弾く技術が求められます。
  • 弱音のコントロール 曲全体を通して静かなトーン(pやpp)が続きます。その中で、感情の波を表現するための繊細なタッチコントロールが必要です。

この曲が愛される理由

  1. 「甘すぎない」大人の魅力 第2番は誰にでも愛される甘さがありますが、第1番には「孤独」や「ため息」のような、少しビターな味わいがあります。その深みにハマるピアノファンが多いです。
  2. 即興的な自由さ 音符の数が小節ごとに異なるため、演奏者によってテンポ感や歌い方が全く異なります。「ピアニストの個性が最も出るノクターン」の一つとして愛されています。
  3. ショパンらしさの原点 「ピアノで歌うとはどういうことか」というショパンの哲学が、この第1番に凝縮されています。

まとめ

ショパンの『ノクターン第1番』は、静寂な夜に一人、物思いにふける若者のポートレートのような作品です。

規則正しい時間(リズム)の中に、溢れ出る感情(連符)を流し込む。そんなロマン派音楽の醍醐味が詰まった、隠れた名作です。

楽譜

Youtube動画

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